熱い気持ちもいつか冷めるさ、
そうあのときの自分に言ってもおそらく信じないだろう。
当時僕には好きな女の子がいた。背が高くて、とても綺麗で、つんとしているけど時々浮かべる笑顔が素敵な子だ。そんな彼女に僕は夢中だった。
というか、夢中になりすぎていた。
寝ても覚めてもその子のことが気になった。今何をしてるかな、彼氏はいるのかな、休みは何をしてるのかな、昔どんな人と付き合っていたのかな、などなど。
僕の関心は全て彼女に向けられていた。ストーカー1歩手前である。
このとき学んだ事なのだが、強すぎる憧れは恐れを生み出すものらしい。好きだけど、気になるけど、怖い。嫌われたくない。おかげでお縄につくこともなかったけれど。
ただ想像するだけで1歩を踏み出せず、ぐるぐると感情が頭の中で周り続け、すっかり疲れきった僕はついぞ彼女に何も伝えなかった。
これを評する便利な言葉がある。愚か者だ。
思い出したくもない。あれは卒業式の夜だ。酒に酔っていたわけでもないのに、僕はひとり布団の中で泣いていた。枕に顔を埋めて音を消した。もう会えないだろう、その絶望感に打ちひしがれていた。世界が終わったと思った。大切な何かがこぼれ落ちていくのを見送るしかなかったのだ。
卒業と共に、間違いなく僕の中で何かが消えた。
今思えば、自分に酔っていたのだろう。
学校を卒業してもう何年も経つが、今ではけろりとしている。世界は終わってないし、あの頃のまま、僕は愚か者であり続けている。